筒井康隆氏についての…

筒井康隆さんについての情報を中心としたブログです

「『筒井康隆入門』刊行記念 極私的ツツイ長短編ベスト対決!」

大森望 5位『わたしのグランパ』
 「いい話」枠で選出した。断筆解除後、老いを主題にした作品が多いが、『敵』『銀齢の果て』よりもファンタジー色が濃い、筒井さんらしくないウエルメイドな作品。
佐々木敦 5位『ダンシング・ヴァニティ』
 基準としてリアルに好きな作品で5作選出。筒井さんが年齢を重ね、実験的な作品はもう書かれないかと感じていた時にあらわれた。筒井さんの繰り返しのモチーフである「反復」を中心としながらも長篇として完成されている。読後感も素晴しい。
 大森:『ダンシング・ヴァニティ』は私は2位にした。既に大家となり、何を書いても文学という域に達していた時に、実験精神にあふれたこの作品が書かれたことに驚いた。「反復」は「しゃっくり」から「時をかける少女」等、筒井さんが繰り返し用いてきた手法だが、古典芸能への作品内批評など実験と内容が渾然一体となった傑作。
 佐々木:現在、品切。復刊や電子化を希望する。
大森望 4位『美藝公』
 筒井さんの映画への愛が込められた、改変歴史もの。筒井さんの理想としての映画立国が描かれ、横尾忠則のポスタアが入った豪華な造本も素晴しい。
 佐々木:筒井さんの映画への造詣はノスタルジイを伴っている。映画の黄金時代への愛が溢れる名品。
佐々木敦 4位『夢の木坂分岐点』
 『虚人たち』以降の技法を応用、主人公の名前が次々に変わっていくなどインパクトある作品。実験的でありながら、独特のロマンがあり、特に結末の余韻が印象的。
 大森:虚無的だがリリシズムがあり、甘美な感じを受ける。
 佐々木:『モナドの領域』の数式に提言された、哲学者の青山拓央氏はこの『夢の木坂分岐点』が筒井さんの作品で最も好きとのこと。氏との対論も企画している。
大森望 3位『ロートレック荘事件』
 今年は新本格30周年と言われているが、新本格初期の1990年に書かれた作品。東野圭吾『仮面山荘殺人事件』も同年出ており、新本格の様々なタイプが出てきた頃に刊行されている。
 佐々木:筒井さんは黄金時代の海外ミステリーも熟知していて、『富豪刑事』などのミステリもあるが、トリックを創り上げるのに苦労すると述懐されている。
 大森:この時期になぜ書いたのかという疑問があるが、恐らくこのトリックがおりてきて書いたのだと思う。非常に技術が必要とされる作品だが、筒井さんだからこそ書けるミステリになっている。
 佐々木:制限があればあるほど燃える、筒井さんでないと書けない作品。
佐々木敦 3位『大いなる助走』
 文壇のパロディがこれほど戯画化され面白く読めるのは新鮮で驚き。
 大森:前半(同人誌パート)と後半(文学賞パート)は別々の話のよう。選考委員はモデルを特定出来るような書き方になっている。
 佐々木:連載時から話題になって、山田正紀直木賞の候補となっていた時期に連載という、現実と同時進行していた(のちの『朝のガスパール』を想起させる)。結末近く、同人誌の編集長の独白でタイトルの「大いなる助走」の意味が明かされる場面はやりきれなさも漂う。題材の話題性もありながらウエルメイドな作品。
大森望 2位『ダンシング・ヴァニティ』
佐々木敦 2位『脱走と追跡のサンバ
 強烈な饒舌、過剰な言葉遊びで語られる、筒井さんでしか書けない一種の私小説
 大森:広い意味ではニューウェイブと呼べると思うが、欧米の作品にも見られない。
大森望 1位『虚航船団』
 新潮社純文学書き下ろし作品として刊行されたが、文房具と鼬が戦争するという、滅茶苦茶面白いSF。
 佐々木:『虚人たち』に続いて、筒井さんが事前喧伝していたこともあり、期待して読んだが、思っていたものとは違う印象を受けた。
 大森:刊行当時、毀誉褒貶があり、筒井さんも『虚航船団の逆襲』で批判に応じた。
 佐々木:多彩な登場人物含め物語の雰囲気は円城塔『エピローグ』は似た感じを受ける。
 大森:円城塔は筒井作品はほとんど読んでいないと聞いている。
佐々木敦 1位『虚人たち
 虚構内人物を意識している主人公など様々な実験的手法を駆使した、大好きな作品。
 大森:『虚人たち』は手法が主で『虚航船団』はさらにその手法を押し進めて純然たるSFになっている。佐々木さんが前衛作品が好みで、自分が後衛(?)を選んだ感じ。
 佐々木:筒井さんは天才肌の作家で、それに加え、様々な実験をすることで批判を受け、それに応ずるため、意識して理論武装してきた。またパソコン通信を利用した『朝のガスパール』など新しいことに意欲的。私の『あなたはこの文章を読んでいる』や対論から時間を置かずに「メタパラの七・五人」を書くという瞬発力は特異なもの。
 大森:作家活動のレベルが長期にわたり高いため、代表作も集中することなく、後期にも『ダンシング・ヴァニティ』のような傑作が存在している。このような作家はいない。
 佐々木:長篇のベストとしてはある意味お互い重なるだろうと思っていたが、結果的に重なったのは『ダンシング・ヴァニティ』のみというのが、幅の広さをあらわしている。七瀬三部作もベストとして挙げてもいい。
 大森:七瀬三部作はそれぞれ全くタイプが違う。『エディプスの恋人』はベスターのような視覚に訴えた場面もあったり、超存在を扱った作品。小松左京作品にも通ずる。
 佐々木:第二世代と呼ばれるSF作家までは神的なものを扱った作品があったが、最近はほとんど見られない。そういう意味でも円城塔には近いものを感じる。
 ここでお二人の長篇ベスト5発表は終了。筒井作品はピークが集中することなく初期から後期まで満遍なく代表作が書かれているということが示されたところで休憩に入りました。後半は短篇ベスト10です(続く)。