令和3年度(第78回)恩賜賞 日本芸術院賞 受賞作品展
令和3年度(第78回)恩賜賞 日本芸術院賞 受賞作品展
- 2022.6.22~2022.6.28 日本芸術院会館
上野恩賜公園内 日本芸術院会館展示室で開催中の「恩賜賞 日本芸術院賞受賞作品展」に行ってきました。
会館内、展示室までの行き道には先日の授賞式での写真があり、室内には受賞された方々の作品が授賞理由とともに展示されていました。筒井さんの展示は次の通りです。
- 写真(近影)
- 生原稿「漫画の行方」
- 単行本『ジャックポット』『現代語裏辞典』『モナドの領域』『筒井康隆コレクション 1 48億の妄想』『筒井康隆コレクション 2 霊長類南へ』『愛のひだりがわ』『文学部唯野教授』『悪魔の辞典』『小説のゆくえ』『天狗の落し文』『聖痕』『銀齢の果て』『巨船ベラス・レトラス』『ヘル』『ダンシング・ヴァニティ』『不良老人の文学論』『世界はゴ冗談』『壊れかた指南』『パプリカ』
筒井さん、あらためておめでとうございます。とても嬉しいです。
日本芸術院賞授賞式
日本芸術院賞授賞式
- 2022.6.20 日本芸術院会館
- https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000258561.html
- https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/you/news/post_253772
筒井さん、恩賜賞 日本芸術院賞 改めておめでとうございます。
今子青佳書道展「筒井康隆『残像に口紅を』」
今子青佳書道展「筒井康隆『残像に口紅を』」
- 2022.5.13~2022.6.5(11:00-18:00 土曜日休館。日曜日は17:00まで)
- 光村グラフィック・ギャラリー(東京都品川区大崎)
- 協力/中央公論新社
昨日、今子青佳書道展「筒井康隆『残像に口紅を』」行ってきました。本来であれば昨年1月開催でしたが、コロナ禍のため延期。今回改めての開催です。
『残像に口紅を』全文を書にするという、今子さんの破格な試み。会場は文字で覆いつくされています。
冒頭部分、平石さんにマンションの箇所、単行本では「最近」が文庫では「七年前」に変更されていることを教えていただきました。ありがとうございます。今子さんの書は単行本版をもとにされているということなので「最近」でした。
メタフィクション。超虚構。
そして消えた音もそこここに薄墨で書かれています。
様々な場面が様々な文字で表現され、思わず読み入ってしまいます。深く心に残る、あのタイトルの意味を知る場面では、やっぱり足が止まりました。
美しい美しい野方瑠璃子さん。
寝室に。
最終章は会場を越え、ギャラリーの外に展示。
走れ。
痛い。
ラストへの疾走感そのままに駆け抜ける書に圧倒されっぱなしでした。結末はどうぞご自身の眼で。
その後、今子さんのサイトで告知されていた、筒井さんの講演会・筒井さんと今子さんとの対談にも参加させていただきました。動画が撮影されており公開されるかも知れませんので、簡単に記録のみ(例によって、メモをもとに書いておりますので、不確かな部分があるかと思われます。申し訳ありません)。
「今子青佳書道展 筒井康隆『残像に口紅を』」講演会・対談
- 2022.5.15 14:00-15:00 光村アートギャラリー 12階会議室
- 出演/筒井康隆・今子青佳(対談司会/藪内亮輔)
<筒井康隆 講演会>
14時、筒井さんがご登壇。『残像に口紅を』という長篇をまるごと書にされた今子さんに感謝を述べられ、またコロナ禍のなか展示に足を運んでくれた皆さんにもお礼をと話され、この『残像に口紅を』という作品について語られました。
きっかけはジョルジュ・ペレックがフランスで最も頻度の高い「e」を使わずに長篇を書いたと聞いたこと。もちろん当時は翻訳されていなかったが、その大変さは想像できた。その後ペレックの『人生使用法』という大著が出て、これは大好きな「アパート縦割小説」で、自作の「上下左右」も同じ手法だった。そのうちどうしても「文字落とし」の小説を書きたくなり、構想が煮詰まってきたころ「中央公論」から連載の依頼があり、書くことにした。
当初から最後は音がなくなるまでと考えていたので、どのような順で音を消していくかを考えた。自作での音の頻度を調べて、物語の進行がきつくならないよう、消す音の順を選んだ(最初は「あ」に決めていた)。
ペレックの「e」を使わない作品はその後『煙滅』というタイトルで邦訳が刊行されている。訳者の塩塚秀一郎さんはイ段(い、き、し、ち、に、ひ、み、り)を一切用いずに訳されており、大変な苦労だったと思う。
『残像に口紅を』執筆にあたっては、使用してはいけない音を判別するためワープロのキーボードにシールで印をつけた(一部には画鋲を貼り付けたため指先が血まみれになったという話も広がった)。印をつけたといっても「ぱ」の場合などは「は」「ば」は使えるため難しかった。
音が次々と消えて、半分を過ぎたあたりからは非常にしんどかった。サービスとしてベッドシーンを盛り込んだが、あけすけな表現と遠回しの表現があいまったものとなった。
結末部分はあらかじめ構想していたものを書いておいたが、いざ最後の段になって保存していたものが消えてしまい、復元にも苦心し、誰もが考える「ん」が消えるラストにこぎつけた。
『残像に口紅を』は単行本発売時、書き下ろした最後の部分を袋とじにしたことで評判になった。文庫化された際にも五年ほど前、「アメトーーク」で同志社大の後輩、カズレーザーくんが紹介してくれて十万部の増刷、また最近ではTikiTokでけんごさんが取り上げてくれて、こちらも十万部以上の増刷となった幸せな作品。作者としても苦労して書いた甲斐があった。
その後、筒井さんは『残像に口紅を』から28章のベッドシーン、さらに音が残り10となった56章からラストまでを朗読。大喝采でした。朗読で聞くとまたそのすごさがわかります。
<筒井康隆・今子青佳 対談>
10分の休憩のあと、司会の藪内亮輔氏から今子さんが紹介され、その後、筒井さんがふたたびご登壇。対談が開始されました。
今子さんは今まで小説の一部を抜粋して書くことはあったが、全文というのはなかった。全文を書くのはとても大変で、最初はいつ終わるのか目途がたたなかったと語り、それでも終わりに近づくにつれて、淋しさを感じながら一気に書き上げたと述べられました。
筒井さんは「書」については詳しくないが、細かい作業だったと想像できる。会場外にも展示されていて、最後の場面など文字そのものが嵐のように書かれている。心境の変化があったのではと、展示を見た感想を語られました。
今子さんは最後のほうは自動書記のようになったと応じ、通常の書は一枚でどのように表現するかを考えるが、今回は会場全体でどのように見せるか、全文を写経のごとく書き連ねた。音が次々と喪われ、ぎこちなさやきしみを感じ、それにつられてのあの書となった。筒井さんの作品の、文字の力だと思うと語れました。
筒井さんは「なぜ『残像に口紅を』を選んだのか」という理由がわかったように思うと述べられ、今子さんは書は文字を伝えるために書かれてきた。『残像に口紅を』は文字が消えていく世界。書で表現したらどうなるだろうと思い、選んだと応えられました。
その後、今子さんが研究している石川九楊氏についてなどもありましたが、詳しくは公開されるであろう、動画のほうをぜひご覧ください。
刺戟的な展示でした。筒井さん、今子さん、光村グラフィックギャラリーの皆さん、ありがとうございました。