筒井康隆氏についての…

筒井康隆さんについての情報を中心としたブログです

「新!読書生活 エンターテインメント小説の水平線」

 ということで、行ってきました、全電通ホール! 出る間際に泡坂妻夫氏の訃報を知り、呆然としたまま会場へ。着いたのは18時10分くらいでしたが、席はもうあらかた埋まっていて、やはり抽選はなく全員当選だったのではと焦っているところで平石さんに見つけていただき、隣席へ。いつもいつもありがとうございます。
 最初に登壇されたのは海堂氏。このイベントのナビゲーターとして、昨今の出版不況にふれながら、文学の華と信じているエンターテインメントが元気になれば、本の持つ力はまだまだ発揮されると語り、学生の頃からあこがれだった筒井さんと対談できるということでこの大役を引き受けたと告白。自らの読書体験や作家になるまでのこと、近況などを熱心な聴衆を前にやや緊張の面持ちで話されました。
 開演前に平石さんと、内視鏡挿入で麻酔を断るというのはすごいですね、いや『虚航船団』で出産場面を想像力で描くというのがあったじゃないですか、自分の中に何かが入るというのもその流れなのかも、しかしポリープ切除後すぐなのに長丁場大丈夫なんでしょうかなどと話しているうちに、満場の拍手のなか、颯爽と筒井さんがご登場。
 トークショーは海堂氏の質問に筒井さんが応えるかたちで進行。その模様は3/5(木)の讀賣新聞紙面で二面にわたって紹介されるのことなので、詳細はそちらで見ていただくことにして、筒井さんのお話で印象に残ったことを少し。

  • 丸谷才一氏が讀賣新聞で「読むに値する小説の条件は芸術的野心と個性的文体があること」と語っておられたが、その通りだと思う。厳しい時代でも作家は野心を持って自分の文体で作品を書き続けるべきだ。
  • ヴォネガットの言う「頭が腐るようなエンターテインメント」もあるが、2、3冊読めば自然と判断がつくようになる。
  • 私の文体はヘミングウェイの諸作に影響を受けている(虚無感はカフカから影響を受けた)。文体を学ぼうとするにはその作家(ひとりでも二人でも)の作品をとにかく読むこと。
  • 良い小説を読みたいと思っている人は「古典」を読むことをおすすめする。長く生き続けている「古典」は現代では良質のエンターテインメントとして楽しめるものが大半。
  • 私は最近では萌え小説(ライトノベル)を<ファウスト>に書いているが、今までも様々なジャンルの作品を書いてきた。いろいろなジャンルを書くことで、読者が新たなジャンルを知り、そのジャンルのほかの作品も手に取って読んでくれることを願っている。

 その他、ランキングの弊害、『虚人たち』『ダンシング・ヴァニティ』の創作秘話、文学賞選考についてなどなど盛り沢山でした。
 トークショー後半はおすすめの本をお互いに紹介していくという構成。筒井さんのおすすめの作品五点とコメントを少し。

  • モンテ・クリスト伯』アレクサンドル デュマ/山内 義雄・訳 岩波文庫
    • 幼い頃、新潮社の世界文学全集で夢中になって読んだ。抄訳の子供向き全集で読まなくて良かった。「神は細部に宿る」とは小説のためにあるような言葉。筋を追うだけの抄訳では物語の神髄は味わえない。
  • 東京島桐野夏生 新潮社
    • 選考委員をつとめる谷崎賞に推薦して、そして(授賞に反対する)井上ひさしに勝った作品。私の選考基準である、「ファンタジー」「実験性」「笑い」の要素が全てある。
  • テンペスト池上永一 角川書店
    • 主人公の人生をともに味わえる重厚な作品。
  • 『金魚生活』楊逸 文藝春秋
    • 通常の日本語の中で、中国の言い回しが使用されている部分が異化効果を生み、それがそのまま日本語に対する批評になっている。
  • チーム・バチスタの栄光海堂尊 宝島社
    • 良いエンターテインメントはキャラクターが際立っていればより光る。この作品は名キャラクター揃いだが、中盤以降まであの最高の個性ある人物をとっておいたことが素晴らしい。

 海堂氏が選んだ五作(うち一冊は『ダンシング・ヴァニティ』)についての話も素晴らしかったです。『麻雀放浪記』(阿佐田哲也 文春文庫)については「悪書の名作であり、だからこそ素晴らしい。当時、読後、必ず純文学が書ける人だと思った(その後、『百』『狂人日記』など名作を多数執筆された)」と。そして阿佐田氏と筒井さんが交遊されていることを知った小松さんが、阿佐田氏にこっそりと「筒井さんだけには博打を教えてくれるな」と頼んだというエピソードも。
 お互いの推薦作紹介が終わったところで「こんなところでしょう」とお開きに。とても楽しいひとときでした(帰りにはASAHIネットの221情報局・筒井症候群の方々とお茶しました〜)。筒井さん、海堂さん、ありがとうございました。