筒井康隆氏についての…

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筒井康隆さんへの質問状 『聖痕』出版記念講演会」

  • 2013.6.15 15:00〜16:00 大阪・御堂会館 A展示室
  • 主催/朝日カルチャーセンター 中之島教室

 行ってきました。御堂会館。当日のメモと記憶を元にレポートします。思い違いもあるかも知れませんが、お許し下さい。

 伊丹空港を下り立ったら、土砂降り。モノレールで蛍池、阪急で梅田、地下鉄で本町へ。時間の都合で青空書房さんへは寄れず残念。

 御堂会館に着くと結構人が集まっているが、どこか雰囲気が違う。2Fグッズ売場という案内があり、下りて来たひとがアイドル系のそれを持っていたので、ここではないと判断。少し先に行くと会場への案内が出ていました。

 下に降りて、とりあえず並んでみる。奥のほうで『聖痕』を並べている新潮社の方と、翻訳本ほかを並べるアホウドリさんの姿が。筒井さんはリハ中で、その後控え室へ。並んでいる列に「早すぎるよ」と。すみません…。

 2時半頃開場。さっそく書籍販売コーナーへ。持っていないチェコ版『パプリカ』があったので購入。『現代語裏辞典』『ジャズ小説』『筒井康隆ジュブナイルセレクション』セット、各種翻訳本、次から次へとはけていく。開演前にはほぼ完売に…。

 3時。司会の紹介とともに拍手のなか、筒井さんご登場。
「今日はようこそ。北は北海道、南は鹿児島まで、私の愛読者の核(コア)というべき方が集まってくれている。事前に募った質問も主催者側がセレクトしただけで30以上あり、すべてに答えると三、四時間かかってしまうので、10問ほどに絞って答えさせていただきます」と。
最初、この会は朝日カルチャーの特別講義の恒例としてフェスティバルタワーでやる予定だったが、あのビル自体に喫煙場所も灰皿もなく、この御堂会館を手配してもらったそうで、
「ここは告別式がよく行われる場所。筒井家の菩提寺も近くにあるので、私もここでやるかも。その際も是非お越しください」と。爆笑でした。

 傾向が似ている質問にはまとめて答えますとのことで、まずは『聖痕』での実験について。
・60代男性 本来の古語以外にもちかちか猫笑いなど新しく筒井さんが創られた言葉もあると思われますが、いろいろな仕掛を読み解くヒントを教えてください。
・40代女性 古語や枕詞の使用以外の文学的実験は。
・50代男性 学校で古典や短歌を学んだ際、古語や枕詞は現代国語と切り離されて教えられた。古語と現代語とを一緒に学ぶことは可能でしょうか。

・回答 ちかちか笑いは好きな表現で他の作品でも何度か使用している。以前、朝日新聞に連載した「漂流ー本から本へ」の執筆時、過去読んだ昔の本を読み返すと、古語が自然と使われており、その面白さを再確認した。「ののめく」など思い込みで意味を覚えていたものもあり、古語辞典で調べながら、筆を進めた。多少の間違いはあるかも知れないが、言葉は時代に応じて変化していくものであり、物語の中で用いられることによって読者に現代語として蘇り、記憶され遺伝していけば…と思う。
 また古語でかつ現代語にも違う意味がある言葉は意識して用いた(乱舞や松千代)。また新しく創った言葉もある。古語のようだが、語註のない言葉には注目して欲しい。
 加えて各章の頭には擬古調を用いたり、同じ段落内で独白・地の文・括弧を使用しない会話があり、視点の移動もある。赤ん坊が怒っている擬古文はヘンリー・ジェイムズの「メイジーの知ったこと」に影響を受けている。主人公の言葉か作者の言葉か、自由間接話法をさらに広げ表現した。年齢を重ね、もう79歳 。怖いものは北朝鮮くらいで、ほかにはないから自由に書いた。

次は『聖痕』後について。
・44歳男性 これが「最後の小説」となるのでしょうか。
・55歳男性 ゾラが「居酒屋」から続篇「ナナ」を生み出したように、『聖痕』からその後の瑠璃を描く続篇は生まれないのでしょうか。

・回答 現在は精魂尽き果てた(笑)といったところですが、作品を書く限りは常に「これが最後の作品」という覚悟で書いています。新たな着想があれば書くこともあるでしょうとしか申し上げられない。
 『聖痕』は年代記(クロニクル)を書きたかった。事前に年譜を作成したりしたが、自分には向いていなかったと思う。映画の公開など年代があっていないものもあり、連載から単行本ではカットしている箇所もある。
 また続篇としての『瑠璃』は近未来の小説=SFになってしまうので、同じタッチで書くのは難しいし、現代ほど先の見えないものはないので、困難。

・50代女性 息子の伸輔さんによる挿絵について。

・回答 今回、息子である筒井伸輔に挿絵を依頼したが、新聞連載小説で抽象画は初だったと言われるし、貴夫はじめ登場人物を具象画で描かれてしまうと、それこそ読者の想像を阻害することになるので良かったと考えている。もっとも伸輔の絵は抽象画でもあり、具象画でもある。本人は毎回内容に即した挿絵にしたと言っていて、同じ日に異なる情景があった日はどちらを描こうかと悩んでいた。毎回、忠実に真摯に取り組んでくれて感謝している。

・47歳男性 以前「ビーバップハイヒール」で小説は千人に一人理解してくれればそれでいいとおっしゃっていましたが、筒井さんにとってそのように自分が誰よりも理解しているという小説は何でしょうか。

・回答 そんなことを言ったかどうか失念していますが、自分がこよなく好きでもっと評価されてもいいと思う作品は、大江健三郎さんの『同時代ゲーム』です。第一章は難しく読み辛いかも知れませんが、奇妙な人物多くが出てくる第二章はすらすら読めて面白く素晴らしい。自分で映画化したいと思い、シナリオを書きかけたこともあります。

・45歳男性 村上春樹の新作はどうしてあんなに売れるのでしょう。

・回答 わかりません。それよりも海外で受賞したひとに対し日本人は冷たいところがあるように思う。大江さんの作品はもっと受け入れられていいと思います。

・19歳男性。「先生」と呼ばず、「筒井さん」と呼んで欲しいとおっしゃっていましたが、「文豪」となられた現在でもそうなのでしょうか。

・回答 自分自身では「偽文士」と思っている。「先生」と呼ばれることを拒否していたのは、若い頃、酒場などで編集者たちが「先生」というと周囲から厭な反応が返ってくることが多かったから。最近の若い編集者が「筒井…さん」と口にするたび言い辛そうにして身悶えするため、最近は「先生」も解禁している。

・40代男性 『聖痕」 は古語が多いのに音読したくなります。音読されることを前提にリズムを意識して書かれたのでしょうか。
・19歳男性 コントの作り方を教えてください。

・回答 質問の答えになるのではないかと思うので、未発表のコント二篇を朗読させていただく。

ということで、最初につい最近出来上がったという、歌謡曲の歌詞を披露されました。曲は3番まであって、1番の最後は「誰か見つけてちょうだいな♪」でした(とある女優さんを思い浮かべて作ったものとか)。

 コントは「絵の教室」「知床岬」の二篇。内容は書きませんが、二篇とも大爆笑。「知床岬」では「フリン伝習録」以来の筒井さんの歌声も聞けて大満足でした。

 とても楽しいひとときでした。筒井さん、朝日カルチャーセンターの皆さん、参加された方々、ありがとうございました。