筒井康隆氏についての…

筒井康隆さんについての情報を中心としたブログです

栗本薫氏 死去。

 最初にその報がもたらされた時にはまだニュースなどでの告知は無かった。間違いであればと思い、早川書房の知った方に電話してみると、私も先ほど知りましたとの返事だった。グインの新刊が出れば読むという人は会社の中にも何人もいる。どう伝えればいいのかと少し途方にくれた。
 中島梓が最初だったか、栗本薫が最初だったか、記憶にない。ジャンルにとらわれず、ただ物語を書く、そして何でも書けるひとだと悟ったのはいつ頃だったろう。グイン・サーガの、あの悪名高き、アンダヌスが表紙の巻を読んだときか、それとも『十二ヶ月』や『にんげん動物園』連載最終回の山藤氏のコメントを読んだときか。
 グイン・サーガ1巻のハンセン病に関する記述を改めた際の真摯かつ揺ぎ無い態度にも学ぶことは多かった。そして何よりも私は栗本薫を、中島梓を、よく読んだ。高校時代、友達の間でまわし読みされていたのは「グイン・サーガ」の新刊か、平井和正の「死霊狩り」(のちに「幻魔大戦」)ばかりだった。今から思えばなんて高校だったのだろう。
 ハヤカワSFシリーズを模した『火星の大統領カーター』での「あとがき」も忘れられない。最後の一行に至るまで、SFへの愛と哀しみに満ち溢れた、胸に迫る文章だった。
 筒井さんとのことに限っても思い出は多い。「別冊新評」や「想像力の構造」はもちろん、雑誌「波」での対談や「バラエティ」でのあの色紙、「ぼくらの時代」で栗本氏が乱歩賞をとったときの筒井さんのスピーチ、浅川マキの歌う「ケンタウロスの子守唄」に寄せたという同題短篇、そしていろんなことがあってからの「家庭画報」での対話。細かいところまで心に残っているのは「小説」がたまらなく読みたくて仕方なかった学生時代に読んだからだろうか。
 栗本氏は『日本探偵小説全集 9巻 横溝正史集』(創元推理文庫)に、心と力のこもった解説を寄せている。少し長くなるがその一節を引用させていただく。
 「(前略)私は、この世に、横溝正史ほど幸福な、恵まれた作家は、決していなかったであろう、という感にうたれるのである。(中略)彼は、七十九歳のさいごのさいごまで、紛う方のない、現役の作家として生き、そして死んだ、ということ。生ある限り書きつづけ、書くもののことだけを考えつづけ、そしてまるで途中でふっと机の上にペンをおいて立ってゆく人のようにして、われわれの前から去っていったのだ、というそのことが、私の心をとらえ、羨望と憧れでみたしてやまないのだ。横溝正史の生涯こそ、すべての小説家の夢みる理想の一生であろう、と私の思うゆえんは、まさしく、そこにある」
さいごまで書き続けた彼女の人生もまた素晴らしいものであったと私は思う。
心よりご冥福をお祈りします。