「真鍋博 2020」レポート その2
「真鍋博 2020」第3章は「色彩の魔術師」。「ミステリマガジン」表紙原画が立ち並ぶ中央コーナー。大きく翼を広げた鷲が描かれたものなど、自分が古書店で入手した号は思い入れが深く特に時間がかかります。壁にはクラークの『地球幼年期の終り』やディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』表紙原画、資生堂の中国での広報誌「茶花」掲載の「宝石箱」など繊細で美しいカラーイラストが満載。そしてハヤカワ文庫クリスティー作品、星新一の作品集、江戸川乱歩全集、ホームズ、レンズマン……。真鍋さんが手掛けた書籍や文庫がずらっと並び、シリーズ通してのデザインと個々の絵の共鳴に心踊ります。出版社の活動休止により未刊に終わったという『真鍋博とあなたの森の本』はぜひどこかで刊行してほしいと切に願います。
続いて待望の第4章「筒井康隆の世界」。最初は七瀬シリーズ。『家族八景』単行本・文庫表紙原画から、雑誌掲載時も挿画を担当された『七瀬ふたたび』へ。駅のホームが描かれた「邂逅」冒頭部、トートバッグに使用された「邪悪の視線」、「七瀬時をのぼる」「ヘニーデ姫」「七瀬森を走る」まで内容を思い出しながらじっくり楽しめます。『エディプスの恋人』は細かい色指定も添えられた文庫表紙原画がありました。続く『ベトナム観光公社』、銀背の表紙原画、初出時のイラスト、中央公論社版が揃い踏み。さらに『富豪刑事』は初出から8点。単行本・文庫でもお馴染みのイラストの原画は、指示が細かくて圧倒されます。そして「鍵」「人間狩り」「都市盗掘団」「寝る方法」「桃太郎輪廻」「傾斜」「急流」「マグロマル」等々、傑作群に寄せられたイラスト。世田谷文学館「SFの国」で初めて見て、その色指定に驚いた、文庫『メタモルフォセス群島』表紙原画。圧倒されます。筒井さんの「SFマガジン」本誌初登場の際イラストを担当された「お紺昇天」は「SFアドベンチャー」再録時のイラストが展示されていました。中央のガラスケースには『朝のガスパール』関連。連載初回イラストの試作から編集者に宛てた日々の連絡、さらに筒井さんご自身からのイラストについての提案書、何度も試行を重ねたと思われる文庫カバー等々、自分が参加していた電脳筒井線での日々を思い出しながら見ていました。
第1会場はここまで。水樹奈々さんによる、星さんの「妖精」朗読コーナーなどがある通路を進んで第2会場に。
第2会場は第5章「星新一と真鍋博」。まさにベストパートナーの星さんの作品に寄せたイラストが数多く並んでいます。大好きな、中央公論社版『悪魔のいる天国』のカバーや扉絵の原画があんなに小さいものだとは思いませんでした。ショートショートのイラストはその内容に踏み込みすぎないことが鉄則ですが、真鍋さんのイラストはその鉄則を前提に作品全体の雰囲気を体現しているもので本当に素晴らしいと再認識。ハヤカワ文庫版 『夢魔の標的』を初めとする、指定の細かさにもため息。 そして星さんが何度も自作に手を入れられていたように、また真鍋さんも何度も同じ作品にイラストを描いていることもわかりました(「肩の上の秘書」などイラストを時間をかけて見比べてしまいました)。
第6章「モノを動かす」はアニメーション作品についての展示。手塚治虫さんの「ハッピーモルモット」に寄せたイラスト、「潜水カシオペア」などの実際の動画、絵コンテなど真鍋さんのもうひとつの顔を知ることができました。
今回の展覧会「没後20年 真鍋博 2020」、出品作品の質量ともに素晴らしく、堪能いたしました。出品リストは愛媛美術館のサイトで公開され、また図録『真鍋博の世界』(パイ・インターナショナル)は全国書店で販売中ですが、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。