筒井康隆氏についての…

筒井康隆さんについての情報を中心としたブログです

「『筒井康隆入門』刊行記念 極私的ツツイ長短編ベスト対決!」

 10分ほどの休憩ののちに短篇ベストから後半へ。

  • 短篇ベスト10

大森望 10位「秒読み」
 「時間の遡行・反復」にこだわってきた筒井さんならではの逸品。同じ構造でケン・グリムウッドの長篇「リプレイ」があるが「秒読み」のほうが発表は先。SFの枠組で描かれ、ラストの余韻が素晴しい。福音館書店のボクラのSFシリーズ『秒読み』の表題作(因に福音館書店から中学生向けのシリーズという制約はあったが、収録作品の素案を作成した。かなりいいラインナップだったと自負している)。
佐々木望 10位「お紺昇天」
 タイトルからは想像出来ない、AIの車との恋愛もの。
 大森:今考えると未来の車に「お紺」というネーミングは?と思う。
大森望 9位「魚籃観音記」
 孫悟空と観音様の交合を描き、官能小説として完成されている。文庫の解説で野坂昭如が絶賛していて、同じポルノを書いてきたからこその讃辞だと思う。
佐々木敦 9位「ペニスに命中」
 冒頭の2行からすでに狂気を感じさせる傑作。暴走老人をこのタイトルで書ける80代の作家は存在しない。
大森望 8位「繁栄の昭和」
 「ペニスに命中」が収録された『世界はゴ冗談』と同時期に出た、ノスタルジーに溢れた作品集『繁栄の昭和』から表題作を挙げた。
佐々木敦 8位「デマ」 7位「上下左右」
 情報が分岐していきチャート形式で描かれるグラフィカルな作品。同傾向の「上下左右」も7位に入れた。
 大森:当時、文庫に入らなかったのは制約が多かったため。「上下左右」は『SFマガジン700 国内編』に収録したが。空白の部屋についての但書を入れなかったため、多方面より指摘を受けた。
大森望 7位「蟹甲癬」
 グロ部門代表。「顔面崩壊」もそうだが想像力が凄まじく、気持ち悪さもすごい。
大森望 6位「フル・ネルソン」
 第1回星雲賞短篇部門受賞作。センスが素晴しい。
佐々木敦 6位「バブリング創世記」
 言語遊戯ものの傑作。同題短篇集収録の「裏小倉」や、「カラダ記念日」もそうだが、徹底ぶりがすごい(全てやるという姿勢)。
 大森:筒井さん宅を訪れて全篇暗記して朗読したファンがいたという伝説的作品。確かに暗記したり、朗読したくなる。
大森望 5位「熊の木本線」 佐々木敦 5位
 奇しくも順位も重なった。名作。
 佐々木:民話のようであり、伝奇のようであり、不条理世界を描いた作品でもあり、言語SF的な面もある傑作。鉄道に乗ってどこかに行くというモチーフの短篇で「乗越駅の刑罰」などもそうだが異境感もある。のちの「エロチック街道」などにもつながる。結末のオチも決まっている。
大森望 4位「遠い座敷」 佐々木敦 1位
 「熊の木本線」の進化系。自信がないと書けないような高密度。
 佐々木:完成度が高い。読んでいると情景が浮かぶ。
佐々木敦 4位「中隊長」
 収録作品集『エロチック街道』は前衛的な作品を多く含むがその代表作。掲載誌は文芸誌「海」。
 佐々木:この当時、筒井さんとSFの関係性は。
 大森:SF専門誌から中間小説誌、純文学誌と発表の舞台は変わっても、筒井さんはSFと関わり続けた。『日本SFベスト集成』の編纂もそうだし、神戸で行われた日本SF大会「SHINCON」の主宰もSFに対する愛のあらわれ。ただ覆面座談会や「太陽風交点」事件などSF界にとって不幸な出来事もあった。「クラリネット言語」は雑誌『奇想天外』の危機を救うため連載されたが、結局救うことはできなかった。いろいろな歴史を思うと先日から刊行の始まった『日本SF傑作選』の意義は大きい。筒井さん、小松さんの新刊が早川書房から出るということがどれだけすごいことか。
大森望 3位「関節話法」
 ファーストコンタクト傑作選『誤解するカド』に収録した、コンタクトものの傑作(「ヒノマル酒場」も同傾向の作品で傑作)。とにかく笑える作品で、タイトルも素晴しい。
 佐々木:言語・翻訳の変容が肉体の変容となり、笑いとなる傑作。
佐々木敦 3位「東海道戦争」
 その当時のSF手法で描かれた疑似イベントものの傑作。シミュレーション小説として『48億の妄想』とも呼応する。第一作品集『東海道戦争』は本作含めレベルが高く、素晴しい。
大森望 2位「到着」
 わずかな文字数ですさまじいインパクトが語られるショートショートの傑作。奇想SFとして完璧。壮大なスケールのショートショートで語り継がれる。
 佐々木:星新一さんとも違う切れ味。
佐々木敦 2位「驚愕の曠野」
 中篇とも呼べる長さの作品だが、もっと長い作品でも良かったものを濃縮しているような感を受ける。幾層にも展開されていて何度でも読めるファンタジー
 佐々木:ファンタジー的な作品でいうと『旅のラゴス』は。
 大森:近年ベストセラーになっているが理由はよくわからない。吉祥寺方面の書店が「ジブリ映画化の話があった」として展開したという話もあるが詳細不明。「SFアドベンチャー」に連載された、ある意味筒井さんらしくないファンタジー
 佐々木:アニメ化が想像しやすい作品とも言える。
大森望 1位「鍵」
 SFでなくホラーを1位に選んだのは自分にとってオールタイムベストと呼べる怖さを感じた作品だから。自伝的な側面もあり、主人公のノンフィクションライターが過去をたぐっていくその過程が怖い。特に高校のロッカーやあの縁の下の…。
 佐々木:記憶がモチーフで高橋克彦の「赤い…」シリーズも想起させる。
ということで短篇ベストの発表が終了。佐々木さんは筒井さんの短篇には普通に「いい話」も沢山あるが(「かくれんぼをした夜」など)、筒井さんが書かれたものだから二重底のように何かある筈と思うときもあると言われ、大森さんのベストと重なったのは「熊の木本線」と「遠い座敷」の2篇だけだったが、挙げられた作品はどれも完成度が高く、また挙がらなかった作品の中にも素晴しいものがあると続けられました。
 ここでほぼ開始から3時間。会場から触れられなかった作品、好きな作品についての応答があり「耽読者の家」や『文学部唯野教授』といった作品が挙がり、また『日本SF傑作選』の収録作についても語られました。
 最後に佐々木さんより筒井康隆作品は一時期より読める環境になってはいるものの電子書籍を含めて全てが読めるようになって欲しい。『筒井康隆入門』で知った作品を古書店でもいいので探して読んでみて欲しいとの話があり、大森さんとのベスト対決は思っていたものとは違ったがとても楽しいものだったと結ばれました。
 終わったのは十時過ぎ。アホウドリさんと、そういえば「家」とか「ジャズ大名」とか「陰悩録」とか挙がらなかったですねえ。いや山下洋輔さんが「本の雑誌」でオールタイムベストを問われた時に答えた「筒井康隆全作品」というのが正解ですよ。そうだそうだ、山下さんはやっぱりすごいなあなどと話しながら、帰途につきました。
 しかし筒井さんの作品についてのいろんな話が聞けたのはとても楽しかったです。佐々木さん、大森さん、スタッフの皆さん、得難い時間をありがとうございました。
 なおメモの字は自分でとったものなのに判別がしづらく、記憶力も加齢とともになくなってきているため、不正確なところも多いかと思います。聞き書きということでご容赦下さい。